上写真=前日会見で見事のスピーチを述べ、外国メディアからも称賛された吉田主将(写真◎福地和男)

  UAEとカタールは現在、国交を断絶している。そうした政治的背景に関連する質問が地元記者から出るなど、今回の決勝をアジア王者を決める試合とは別の視点からとらえる向きもある。実際、前日会見でもその手の質問がいくつか飛んだ。しかし、吉田は自身の選手としての立場を踏まえて、しっかりと言葉を紡いでいった。 

日本のターニングポイントになる大会

ーー決勝に向けて状態は?
「ここまで6試合をやってきています。短期間で6試合なので疲れはあると思いますが、カタールの方が中2日でフィジカル的にはタフなものになっていると思うので、その点に関して言い訳にするつもりはないですし、ベストな状態で決勝戦へ挑めるように準備していきたい」
ーー優勝した8年前と今のチームを比較すると?
「多くの選手がヨーロッパでプレーするようになって、特に8年、まあ9年前からですが、W杯のあとに多くの選手が海を渡ってヨーロッパでプレーするようになり、こうやって前回(優勝した)大会から8年経って、スタメンの選手を見てみても、移籍も含めて全員がヨーロッパでプレーするようになった。そこの精神的な成長は日本の財産になっていると思いますし、この間のイラン戦の前でも、若い選手がイランのサポーターが多く入ったアウェーの雰囲気を楽しんでいるように感じました。僕自身、それは非常に心強いなと感じました」

 イラン戦後に、GK権田修一のポルティモネンセへの移籍が正式に発表され、決勝戦の先発メンバーは全員が海外組になるかもしれない(イラン戦も同様だが、厳密に言えば、権田の移籍はまだ未発表だった)。吉田は、そうした状況が日本サッカーの成長を示し、選手の成長を促していると話したのだ。

ーー優勝すれば日本にとって5度目の優勝で、吉田選手にとっては2度目の優勝だが、どういう意味があるか。
「ロシア・ワールドカップの前からみなさんにずっと言い続けていますけど、ロシアW杯、このアジアカップ、そして次のコパ・アメリカは日本サッカーにとって非常に大きなターニングポイント、大きな意味を成す時期だと思っています。ここで結果を出すかどうかで、日本サッカーのスポーツとしての人気もそうですけど、成長にも関わってくると思っています。
 僕らはその大きな責任を負ってプレーしていると自覚していますし、個人的にも日本代表として5度目のアジアカップを取りたいと思います。非常に良いチームで、非常に良い監督のもと、非常に良いグループで戦ってこれていると思いますし、1か月近く一緒にいますけど、もっともっと一緒にプレーしたいと感じるような仲間ですので、このチームで勝ちを勝ち取ることができれば、今こうやって世代交代をしている日本代表にとって、新たな一歩になると思います。それはすなわち、次のW杯で前回、成し遂げることができなかった目標を達成できる一歩になるんではないかなと感じています」
ーー明日の決勝にはあまり観客が入らないと思われるが、アジアカップ決勝で、そういう状況についてはどう思うか。
「なぜ?」
ーーカタールからファンが来ることはできないから。
「それは僕らの問題ではありません。監督はもっといい答えがでるかと。僕に聞くのは間違っていますね」
ーー継続力、対応力に加えて今回のチームにはに団結力を感じる。団結力は明日の試合にどんな影響をもたらすか。
「どんな仕事をするときも良いグループであればあるほど良い結果を出せるのではないかと感じます。前回のW杯も8年前のアジアカップもそうでした。良いグループで良い雰囲気で戦える、そのなかで仕事ができるというのは、とても誇らしいことです。もちろん、良い雰囲気だけで結果が出るわけではないと思いますけど、その中に日本代表としての誇りや責任感を背負って、厳しくやるところは厳しくやって、そこは監督を含めてすごく、オンオフの切り替えをやっていただいているのかなと。イラン戦の後もみんなで外食しましたし。そういう非常にいい雰囲気がチーム内に漂っていると、個人的には感じています」

われわれはアジアを代表している

 地元記者らの答えに窮するような質問にも、誠意をもって答えていく。そして会見の最後には、さらに答えにくいと思われる、選手に対して聞くべきかどうか疑問が残るような質問が外国メディアから飛んだ。

ーーカタール選手の出場資格に関する報道があった。直接的に日本に関わりのないことだが、戦力的に影響があると思うが、代表選手としてどう思うか。そういう問題に邪魔されずに試合ができることの重要性をどうとらえているか。(日本語通訳が入り)UAEとカタール戦の後にカタールを邪魔する行為が見られ、カタールにそういう心理的なプレッシャーがかかると思うが、そういうことに対して日本代表選手としてどう考えているか?
「それはAFCがコントロールすべきことです。罰則や出場停止という類のことは、彼らが担当すべきなので。日本とイランの試合の最後にも同じようなことがありました。でもこれは僕らのコントロール外のところにあることです。僕らにできることは、自分たちの試合にフォーカスを当てることで、自分たちを守ること。アジアではとくにメンタルコントロールが大事になります。レフェリーのスタイルがヨーロッパと全く違うので、そこは試合に勝つカギになると思います。僕らはここまでの6試合、大会を通してうまくやってきて適合してきたと思います。
 もし、この試合が全世界へ放送されるのであれば、例えばあなたの放送局からもですけど、試合の後に愚かなことは見たくない。われわれはアジアを代表している。(今大会の)ハッシュタグで『Bring the Asia Together』というキャンペーンもやっていますよね。だから、全てのアジアを代表している国としてアジアのサッカーを代表して良いサッカーをすることが重要です。僕は明日、カタールとフェアプレーで戦うことを楽しみにしています。
 イラン選手とホテルのエレベーターで会ったら、この前の試合の最後に彼らのやった行為を謝ってきました。これがスポーツマンシップであり、フェアプレー精神だと思います。明日も両チームが100パーセントの努力をして、フェアプレーで良いゲームをして、全世界に僕らがどのように戦うのかを見せたい。それが、アジアサッカーをもう1段上に引き上げることになると思います」

 英語で返答し終えた日本のキャプテンに対して、各国メディアから拍手が起こった。政治的な問題やカタールの問題には言及せず、しかし、しっかりとピッチの中でやるべきことについて話した。その姿勢と、フェアプレー精神に対しての拍手だったのだろう。

 日本の誇るべきキャプテンが今日、日本時間23時、自身にとっては2度目の、日本にとって5度目の優勝に挑む。

写真◎福地和男