上写真=1月19日、東京ヴェルディの新体制発表であいさつする株式会社アカツキの代表取締役CEO塩田元規氏(写真◎TOKYO VERDY)

 クラブ創立50周年を迎えた東京ヴェルディとパートナーシップを結ぶ株式会社アカツキは、クラブの未来をどのように描いているのか。株式会社アカツキの塩田元規CEOと梅本大介執行役員のインタビュー第2回は「東京ヴェルディで具体的に何をやるのか」がテーマ。はっきりしたのは、クラブの事業面をより良いものにするという、2人の強い決意だった。

【連載第1回はこちらから】東京Vの運営をサポートするアカツキが描く未来1

ヴェルディの志とビジョンに全員でコミットしていく(塩田CEO)

――今後のビジョンをお聞きしましたが(連載第1回)、具体的にヴェルディの現状と、実際に関わってみて感じること、理想と現状をつなぐために何が一番重要になると感じていますか。

塩田CEO いまヴェルディとともにプロジェクトを進めているのは梅本(大介)なので、細かいことは彼から説明しますが、現時点では、傍目からは、新進気鋭のベンチャー企業がクラブに携わりました、と見られているのではないでしょうか。僕自身がアカツキで好きなのは、カラフルなところなんです。アカツキという会社の文化に投資している。合理的に「売り上げが悪いから、こういうことをやろう」という判断になるよりも、社内の雰囲気を良くしようという考えを優先したい。というのも、良い会社というのは雰囲気が良い会社だと思っているからです。
  アカツキの特徴は、人を否定しないこと。基本的に自浄能力があると思っていますから。また、アカツキはITやゲームのように、まさに人のエンゲージメントを高める知見と技術を持っています。ただ、スポーツビジネスの現状に対する認識や、これまで歴史を創ってきた方たちが積み重ねた慣習なども含めて、僕らの理解はまだまだ足りないとも思います。だから「こうやればいい」と押し付けることは違うと考えます。これまでアカツキが関わってきた事業と「人を幸せにする」という根っ子の部分では同じでも、産業が違いますし、今まで関わってこられた方々や、今も関わっている方々をリスペクトしながら、いかに協力、コラボレーションできるか。それが、この新しいプロジェクトの肝になると思います。

――それは難しいことではないですか。歴史がないがゆえに、新しいものを拒否するという側面は、どんな世界にもあるものです。

塩田CEO 他の産業や企業とのコラボレーションに関しては、われわれは『文化的に』得意だと思っていますし、実績もあります。相手をリスペクトした上で、話を聞きながら、そこで僕たちが何かできるものをサポートしていく。しっかりと、そういう『チーム』になることが重要です。『チームヴェルディ』が持っているビジョンに対して、僕たちが、自分たちから見た成功ではなく、ヴェルディの志とビジョンに全員でコミットして、目標に向かっていくチームになれるかどうか。そこが一番重要だと思います。 
 そうするとお互いが利害を超えたところで仕事をする理由ができる。それがあれば、いろいろなことが進んでいくと思います。もちろん、具体的にやりたいことはたくさんあるんですけど、何が正解かも分からないし、当然、時代も変わっていくと思うので、まずは新しいことを試していければいいと思います。さきほど梅本が言ったように(連載第1回)、元々パイオニアだったヴェルディの本来の文化に、われわれも参加させていただいて、試していけばいいという感覚です。より具体的な話については梅本からお話しします。

梅本役員 強化、育成、事業面で言うと、われわれは基本的に事業の部分でお手伝いしたいと思っています。ですからお話しするのも、事業の観点がメインになります。では事業で何をするのかをシンプルに言えば、お金を稼ぐ力を強くすることです。そのために必要なのは、まず観客動員数を増やすこと。より多くの熱狂的なファン・サポーターを作ること。それによってスポンサーがたくさん集まってくるという状態を作り出すことだと思います。  
 そのためにはヴェルディが、コアコンピタンス(=競合他社に真似できない核となる力)を持つクラブにならなければなりません。人材輩出力があり、育成力が強いというチームにしていきたい。この点をコアコンピタンスにして、ファンビジネス、すなわちブランドのビジネス化が重要だと思っているので、全体的にレベルアップしていき、継続的にお金を稼げる体制を作ることが肝心だと思います。

――お金を継続的に稼ぐために重要になるのはどんなことでしょうか。

梅本役員 一つには、ヴェルディの人材育成力やブランド力を生かして、サッカーだけではないビジネス、スポーツ競技のビジネスをきちんと作っていって、ヴェルディというブランドグループに対するファンを増やしていくことが重要だと考えます。サッカーファンだけではなくいろいろな分野でヴェルディとの接点を増やすことによって、相乗的なビジネスができるのではないかと思っています。現在もヴェルディはいろいろな競技に関わっているわけですが、スケボーだとかダンスチームもあってもいいかもしれませんし、競技が増えればサッカーと接点がないジャンルのファンがヴェルディを知り、じゃあサッカーを見に行ってみようかという回遊があるかもしれない。そうすれば、こちらのジャンルのスポンサーに別のジャンルのスポンサーにもなっていただけるとか、スポンサーのパッケージ契約にもつながるかもしれません。ブランドとしてフランチャイズを複数持って、それを一つのブランドとしてコーディネートしていく。そして、そのコアの部分は、ヴェルディの本質的な強みである人材育成力を最大限使っていくことで形成されますし、ビジネスとして回っていくと思っています。

塩田CEO 僕も経営者として思うのですが、経営とは物差しをどう当てるかが重要だと感じます。何が指標か、ということです。抽象度の高い理想はいろいろと描けると思います。でも、それをパラメーター化して、あるいは要素分解、因数分解でもいいですが、具体的に何なのかを明確にする。こういう作業は、われわれが得意なことなんです。ゲームの世界ではコアなユーザーさんに4年とか5年とか、同じゲームをやってもらうということを考えます。5年間、毎日触ってもらうというのは、すごいことじゃないですか。そのためにはユーザーさんがどういう状況にいて、どういうクラスタ(集合体)に分かれていて、かつ彼らがどのタイミングでどういうことに壁を感じるのかということも含めて、相当ミクロに分析して、彼らにこういうものを提供しようとなります。もちろん最後はクリエイティビティが必要なんですが、そこに至るまでが『見える化』されていないと、そもそも何が理想に対して足りていないかも見えてこないんじゃないかと。まずはそれをしっかり見える化していく。そうした僕らが基本的にやってきた知見を活用して、しっかりとサポートしていくことによってヴェルディの事業もより発展できる可能性を感じます。

塩田元規
1983年 島根県生まれ。横浜国立大学電子情報工学科を経て、一橋大学大学院MBAコース卒業。 株式会社ディー・エヌ・エー新卒入社、アフィリエイト営業マネージャー、 広告事業本部ディレクターを経て退職。2010年6月にアカツキを創業。

あるゆる分野でヴェルディとの接点を増やしていく(梅本役員)

――可能であれば、今後の具体的な取り組みについても聞かせてください。

塩田CEO たとえばスポンサーを増やしたくても、どうやればいいのか分からないケースは多いと思います。観客動員数を増やすということも同じで、きちんと分析しないとダメだと思います。一番重要なKPI(重要業績評価指標)は、ファン・サポーターの方々が劇的に一回増えることよりも、継続してスタジアムに来てくれることだと話しています。ゲームだとこれはリテンションレート、継続率というのですが、一回来て終わりではなくて、どれだけ継続させるか。それはタッチポイントが長くなればなるほどファンになるはずなので、それを作っていくことが重要だと思っています。

梅本役員 ゲームの世界のマーケティングで最初にやることは、プロモーションでたくさんの人に触ってもらうことではないんです。まず最初にやるべきは、バケツの穴をふさぐことなんです。あまりプロモーションしないでたまたまやってくれた人たちが、どのくらいで止めてしまったか。逆に何日も続けてやってくれるか。1日に何回やってくれるか。その数字を上げていくことが大事なんです。それができるようになって、バケツの穴がふさがってから、初めてテレビコマーシャルを打ったり、つまり水を流すんです。そうしないと、1回やって面白くないと思ったら二度とやってくれないですから。二度とやってくれない人たちを集めることにお金を使っても意味がないですよね。  
 これはゲーム、特にモバイルゲームのマーケティングとしては基本的な考え方なのですが、こういうことをヴェルディでは、きっちりやっていく。ゲームで言えば、何分間遊んでくれたか、何日目にやめたか、そういうことを全部データにして追いかけます。われわれは、デジタルのデータに落とすことを、ヴェルディの経営でも考えるべきだと思っていますし、デジタルにできないものでも何かしらの指標をもってやっていくべきだと考えています。それができたときにプロモーションを展開できる。そのプロモーションについても、たとえばバケツに穴の空いた状態で1千万円を使うことと、穴がふさがっている状態で1千万円を使うのでは、効果がまるで違います。どちらがたくさんのお客さんを集められるか。しっかり分析して、継続的にその作業をやっていくことが重要だと思います。これはゲーム会社の得意な部分だと思いますので、その点でサポートしたいと思っています。

――バケツの穴をふさぐために、初めてスタジアムに来た人を逃さないために、どういう方法があると描いていますか。

梅本役員 いま、いろいろな施策について議論していて、ヴェルディの経営陣に対しても、これから提案しようとしているところです。ですか、ここですべてお話することはできませんが、スタジアムの中と外の話に分けて考えています。それからデジタルのオンラインとオフラインの話にも区分けできると思っています。
 たとえ話ですが、初めてスタジアムに出かけた方がトイレが汚いという印象を持てば、二度と行かないとなるかもしれない。長い時間、ただ待たせてしまうとか。そういうことをしっかり分析して対応するということです。個人的なことで言えば、試合前の煽りのムービーを効果的に使えているかどうかが、チームによって全然違うと思っています。そういうこともスタジアムに行く行かないの一因になっているかもしれません。 
 こうしたスタジアムの中の話もあれば、スタジアムの外という部分でファンの方が「きょう楽しかったな、また来よう」と思ったときに、その場ですぐにスマホでポチッと操作すればチケットを買えるようにするとか。1週間経てば、試合直後の感情はどうしたって冷めてしまいます。冷める前に、試合のリプレイやハイライトが送られてくるとか、次の試合の予告が送られてくるとか。それはホームページなのかアプリなのか、スタジアムの外でオンラインでやるとか、スタジアムに向かう導線も含めていろいろとタッチポイントはあると思っています。これはたくさん作るべきことですし、ファンの方、いまはまだファンではない方に対しても、ヴェルディというシャワーを浴びる時間を長くしていく。ヴェルディがなんとなく気になる状態を作っていくことがわれわれの仕事だと思っています。

株式会社アカツキ 執行役員 経営企画部部長兼事業開発部部長
梅本 大介
1977年 東京都生まれ。関西学院大学卒業後、2002年ソニー株式会社入社。株式会社ディー・エヌ・エーを経て経営コンサルタントとして独立。2017年にアカツキに入社。

※次回、連載最終回は東京ヴェルディのさらなる発展のための戦略について迫ります。

【連載第1回はコチラから】東京Vの運営をサポートするアカツキが描く未来1

取材◎佐藤 景(サッカーマガジン編集長) 写真◎榎本郁也