上写真=株式会社アカツキのカラフルなロゴとともに。代表取締役CEOの塩田元規氏

 今年、クラブ創立50周年を迎えた東京ヴェルディとパートナーシップを結ぶ株式会社アカツキとは、どういう会社なのか。そして、どんな未来を描いているのかーー。株式会社アカツキの塩田元規CEOと梅本大介執行役員に話を聞いた。サッカー愛の詰まった2人の話は、1回きりでは収まらず、特別連載として数回にわたって掲載する。第1回のテーマは「なぜ東京ヴェルディのパートナーになったのか」。その言葉には、熱い「思い」が詰まっている。

ヴェルディの素晴らしさをもう一度、新たな形で届けたい(塩田CEO)

――あらためて御社が東京ヴェルディの株を取得し、主要株主となった経緯についてお聞かせください。

塩田CEO 思いを話すと長くなってしまいますが(笑)。まず、アカツキという会社がどういう会社なのかについて説明します。僕らがやっていることは、ITとかゲームと言われるのですが、我々自身は事業ドメインにこだわりはないんです。基本的にはビジネスを通していかに人を幸せにするかということをテーマにしています。そもそもビジネスはそうあるべきだと思います。
 そのときに人の幸せは心が決めるから、僕たちは合理的なことだけではなくて、心や感情にフォーカスしたい。それこそが世界を次のステージに連れていくと考えているんです。そういう思いで『夜明け(アカツキ)』という名前を付けました。僕たちのビジョン・ミッションにも、僕たちの仕事を一言で言うと、心を動かす体験を通して一人ひとりの人生をカラフルに変えていくことという表現があります。 
 この「体験を通して人の心を動かす」ことを考えたときに、スポーツの領域というのは、その部分こそがコアのビジネスドメインだと思っています。基本的に何かモノを買うためにスポーツを見たりする人がいるわけじゃない。たとえば人はスポーツを通して自分の中の感情が動く瞬間とか、喜びやワーッと高ぶる瞬間を味わいたくて、チームや選手を応援しているんだと思います。それはもちろん、良いことだけじゃなくて苦しいことも含めて一緒に旅していくことだと思うんです。

 まさに僕たちがやりたいことのど真ん中に、スポーツがある。

 ゲームは人の心を動かすプロダクトで、スポーツは人の心を動かす体験。その意味で同じですし、つながっている。われわれの中でスポーツと関わることは自然なことでした。

――その中でなぜサッカーなのでしょうか。

塩田CEO では、色んなスポーツがある中でサッカーなのかということになると思うのですが、梅本(大介執行役員)がうちの会社に入るときに「サッカーをやりたいです」と話していたんです。僕もサッカーは大好きですけれども、まだうちの会社がサッカーに関わるとか、そういう話がまったくない頃から、「サッカー(の仕事)をやりたい」と言っていました。うちの会社は社員の思いを大事にしているので、今回、ヴェルディとの関係を築くのには、そういう思いを持っている人間がいたことも大きかった。うちの会社は創業者がやっている会社で、いわゆるサラリーマンっぽい経営者のスタイルでもない。株主の方にも合理的なことだけではなくて一見不合理に見えることにも投資しますと明言しています。そういう会社だから梅本も言いやすかったのかもしれません(笑)。経営陣も先ほど話した理由からスポーツはやりたいと思っていて、僕自身が好きですし、梅本の思いもあって、サッカーに関わりたいということになりました。梅本からは、「塩田元規はゲームプロデューサーをやっていて色んな人たちをワクワクさせてきたけど、渋谷のスクランブル交差点に人が集まるほどには、まだできていないでしょう」と。そういう中で、われわれも会社を上場して、事業も大きくなって、というこのタイミングで参入しようということになりました。

――その中でも東京ヴェルディと手を組むことになったのはなぜでしょうか。

塩田CEO 僕たちがいまゲームや既存の事業でやっていることは、ファンビジネスで、体験ビジネスだと思っていますし、ある意味ではブランドビジネスだと思っています。僕たちがゲームを通してやってきたことというのは、もちろん自分たちからゼロから1を生み出して、新しいことを作り出しているということもやっているんですけど、いわゆる認知されていたものを、もう一度ゲームを通して新しく多くの人々に届けるということもやっています。そのためには、過去に素晴らしかったものや栄光、実績、そして物語がそのコンテンツにあるかどうかがものすごく重要です。僕自身が小学生の頃にサッカーをやっていたのですが、ちょうどそのときにJリーグが開幕しました。あの頃は全員がサッカー部に入ろうというくらいにJリーグ人気がありましたし、そのときにヴェルディというクラブが僕の心に刻まれたんです。結局、子どもの頃の体験というのは、とても重要で、ヴェルディには伝統と文化があるのが僕自身の中にも刷り込まれている。ただ、その中でこの10年間くらいは、チームの成績も含めてあまり良いものではなかった。そこでわれわれがゲームの世界で培ったノウハウを生かしながらお手伝いすることで、もう一度、このブランドを復活できるのではないかと思ったのです。過去に素晴らしいものがあるので、その素晴らしさをもう一度、新たな形でお届けしたいと考えたんです。

――伝統と実績があることが重要だったのですね。

塩田CEO その通りです。もう一つ、重要だったことは東京のチームであることです。アカツキという会社は元々、日本だけの会社にするつもりはなくて、「グローバルの会社にしていこう」、「世界に冠たるベンチャーになる!」という考えにおいて、当然、チームに関わるなら世界に通じるチーム、クラブにしたいと考えました。そして、そうであるなら首都・東京のクラブであることはとても重要でした。世界の人たちから見たときに、東京は認知されている場所ですし、先ほどの渋谷のスクランブル交差点にしても観光名所になるくらい知られています。サッカーチームに僕らが関わらせていただけるなら、やはり世界に発信していく、発信していける、そういうチームにしていきたい。それで今回、こういう縁があって関わらせていただくことになったんです。
 サッカーについては、彼(梅本)の思いが強いので、その思いについても聞いていただきたいのですが、アカツキという会社のロゴはカラフルですよね。これはビジョンもカラフルに、というテーマだし、それは一人ひとりの思いが形になっていくということでもあります。そこに思いがないと、ビジネスは絶対にスタートしてはダメだと僕は考えています。「合理的だから」という理由からスタートして、うまくいったビジネスを見たことないですから。短期的にはいいかもしれませんが、ロングタームでは残っていかない。これからの時代は本物しか残らないと思います。思いのあるメンバー(チーム)と、可能性のある事業が両方セットじゃないと、僕は「ゴー(サイン)」を出さないんですが、その意味で今回、ヴェルディに関わることについては、その両方がそろっていました。僕自身はいろいろな経営もあって、物理的にヴェルディだけにコミットする、というのが今後、難しい部分もあるかもしれない。そう考えたときに、梅本には思いがあって、先陣切ってやりたいという意欲もあります。二つがそろったことで、今回の判断になりました。

株式会社アカツキ 代表取締役CEO
塩田元規
1983年 島根県生まれ。横浜国立大学電子情報工学科を経て、一橋大学大学院MBAコース卒業。 株式会社ディー・エヌ・エー新卒入社、アフィリエイト営業マネージャー、 広告事業本部ディレクターを経て退職。2010年6月にアカツキを創業。

ファン・サポーターの方と一緒にこの旅路を歩んでいきたい(塩田CEO)

――思いをもった今回の決断なのですね。
   
塩田CEO これからヴェルディが世界に冠たるクラブになっていくと考えると、僕らも、ものすごくワクワクする。これはアカツキでよく言っていることなのですが、「会社としては、旅行ではなく旅が大事だ」と。
   
――どういう意味でしょうか。
   
塩田CEO 旅行というのは目的地に早く、安く行くとが大事になる。たとえばディズニーランドに遊びに行く旅行を計画したら、ディズニーランドに行くためには速い新幹線を使ったり、可能な限り安いチケットを探したり、そういうことが重要になる。でも、旅は、そうじゃない。目的地に到着するまでのプロセスが大事になると思うんです。スポーツもそれは同じだと思っていて、J2からJ1へ上がって行き、世界的なクラブになっていくという旅路を、一緒に歩んでいくということ自体にワクワクしているんです。短期的な経営を考えるのではなく、もっと長いスパンで考えています。この旅路を、チームの方々、ファン・サポーターの方々と一緒に歩んでいきたいと思っています。あとは、ヴェルディへの思いが強い梅本に話してもらいます。

梅本役員 なぜサッカーをやるのか、なぜヴェルディなのかについて、塩田の話の繰り返しになりますが、アカツキの考え方をお話しさせてください。何のために会社は存在し、何のために売り上げを作るかと考えるときに、「会社というのはビジョンを実現する箱だ」と、アカツキでは定義しています。世の中に楽しいもの、ワクワクするものを提供し、それで人と人がつながって、楽しいエンターテインメントを通して、幸せになるということを会社としてやりたい。その中で、会社が倒産してしまってはビジョンを実現することができなくなるわけだから、存続し続けなければいけない。存続するためには利益を出さなければいけないし、もしくは新しいことに投資するためには利益を出さなければいけない。これがまずこの会社の考え方で、サッカーというものも、ヴェルディというクラブも、先ほど塩田が話した「人を幸せにする」というビジョンにマッチする部分が多いと思いました。人を実際に動かす力として、たとえばゲームで人がどれだけ集まるかというと、ポケモンGOか、ドラクエ(ドラゴンクエスト)が発売になるときにお店に並ぶとか、それぐらいではないかと。でも、サッカーではそれこそワールドカップの出場が決まれば、渋谷のスクランブル交差点に人が集まってハイタッチをかわすし、試合を見るためにカンプノウ(FCバルセロナのホームスタジアム)まで日本から出かけるわけですよね。バルセロナ市の観光スポットにはサグラダファミリアや複数の博物館がありますけど、一番たくさんの人を集めるのはカンプノウのスタジアムツアーなんですよね。それぐらい人が動くもの、人が感動するものなのだから、当社が人を幸せにするというビジョンを実現する中でスポーツ、サッカーにビジネスとして関わることはマッチしていると思っています。

 その中でヴェルディと関わることになりましたが、ヴェルディはフロンティア(開拓者)、パイオニアですよね。日本で一番古いプロサッカークラブで、ずっと先進的なことをやって強かった。それは今でも海外でも行くと「ヴェルディ」は認知されている。レッズ、アントラーズ、そしてヴェルディなんですよね、知っているクラブを外国の方たちに聞くと。そういうクラブとお仕事することができるということはやはりわれわれとして大きいことだと感じています。
 それからいま、ヴェルディがやろうとしていることにも共感しました。育成を通じて、サッカー選手だけじゃなくて、たとえばプロになれなかった選手も、それぞれ進んだ別の世界で通用するように、そういう育成組織を作っていきたいと。そういう育成組織については、すでにヴェルディの方々とわれわれとずっと話しているところなんです。そうやって日本を代表するような人材を輩出する装置になろうという考えがあり、それをこの日本の中心である東京でやっていこうと考えがある。クラブとわれわれで、その部分がぴったり合ったことも今回パートナーになる上では大きかったです。

――とはいえ、Jクラブの中には経営の難しさに直面しいるところもあります。ビジネス的な側面から、いま話されたビジョンは実現できるものなのでしょうか。

梅本役員 スポーツビジネスはまじめにちゃんとやれば、少なくとも損はしない状態、きちんと利益を出す状態にはできると思っています。すでにいろいろな形でお話しさせていただいていますが、われわれがゲームの世界で培ってきたビジネスのノウハウを生かして一緒に取り組むことで、売り上げを増やして利益を増やすことはできると思っています。とくに日本ではスポーツの中でもサッカーは大きなジャンルですし、その中でもやはりヴェルディはブランド力があるし、ストーリーがあるし、かつ東京にある。ビジネスを再成長させる中で、アセット(経営資源)としては一番、いいものを持っていると思います。ビジョンとしてやりたいこと、ビジネスとして成功する可能性、その両方がそろっていると思っています。

株式会社アカツキ 執行役員 経営企画部部長兼事業開発部部長
梅本 大介
1977年 東京都生まれ。関西学院大学卒業後、2002年ソニー株式会社入社。株式会社ディー・エヌ・エーを経て経営コンサルタントとして独立。2017年にアカツキに入社。

サッカーを通じて世界で通用する人材を輩出したい(梅本役員)

――いま話して頂いたことは、アカツキとしての考え方だと思いますが、先ほど塩田CEOの話にもあった通り、梅本役員のサッカーへの思いが今回の出発点にはあったと思います。その思いについてもお聞かせ願えますか。

梅本役員 幼稚園のときにサッカーを始めたんですけど、それ以来、ずっとプロ選手になろうと思って、ブラジルに行ってプロになるんだと思っていたんですけど、高校を出て、そんなにうまくなかったからどこからも声がかからず、飛行機に乗って行けるから(笑)、ドイツに行きました。
 でも当然、プロにはなれなくて日本に帰ってきて関西学院大学の体育会のサッカー部に入りました。卒業するときに、日本のプロサッカークラブの経営者になりたいと思って、就職活動したんです。なれる方法は何だろうと考えながら。2002年にソニーに入って、その後DeNAに移って、アカツキに来たんですが、サッカークラブの仕事に関われそうなルートは何なんだろうと、この何年かも思っていました(笑)。ですから、遂にそのチャンスが来たという感じなんです。

 なぜ当時の僕がプロクラブの経営者になりたかったかというと、一言でいうと、日本はとても素晴らしい国なのに、損しているなと感じて、そのことに対して憤りがあったからです。留学していたときに、日本人が、日本や日本人のことをダメだと思っていると感じることが多かった。すぐ「アメリカでは…」「ヨーロッパでは…」みたいなことを言うじゃないですか。でも、ドイツに暮らして思ったのは、日本ほど良いところはないということでした。「日本人はすごい」とも思いました。

――そこからどうやってプロクラブに関わりたい、ということになるのでしょうか。

梅本役員 なぜ「日本人はダメなんだ」と自ら思ってしまうんだろうと。そういう考えに至るのは教育の問題もあるだろうと。そこに憤りがありました。
 その後、関学のサッカー部に入って、僕なんかがプロ選手を目指すなんておこがましいと改めてよく分かりました。国見出身の選手の練習の話とか聞くと、本当にすごいし、Jクラブのユースからも選手が来ていた。みんな、とんでもない練習をしてきているわけです。僕みたいに弱小高校でちょっとうまくて、というレベルではない。でも、みんなそのすごさに自分で気づいていなかったり、サッカーに夢中であるばかりにそれ以外にことに目が向かなかったり、エリートではあるのに、自分のことを知らなかったり。世の中への価値貢献とか、自分を客観視することができない仲間の姿を見て、これはどうにかしないといけないのではないかと思うようになりました。プロ生活を終えたあと、セカンドキャリアの問題がありますが、その手前でそういう教育とかトレーニングを受けていれば、ずいぶんと変わるということを感じます。

 そこで大学を卒業するときに、ずっとサッカーをやってきて、プロ選手にはなれなかったけど、サッカーには何か関わりたいという思いがありましたし、そうした憤りを感じていたので、サッカーを通じて、ちゃんと育って世界で活躍できる選手を育てたい、サッカーのプロ選手になれなかった人たちもサッカーを通じて学ぶことが本来あるはずで、そのことできちんと世界で通用する人材を輩出するクラブを作りたいと考えました。ですからクラブの経営に携わって、人を育てたり、街を作ったりすることをしたいと思って、漠然と経営者という発想になったのだと思います。

取材◎佐藤 景(サッカーマガジン編集長) 写真◎榎本郁也

※連載第2回は東京ヴェルディをどう成長、発展させていくのか、そのプランなど、より具体的なビジョンについて語ります。

◆株式会社アカツキ 
 モバイルゲーム事業、リアルな体験を届けるライブエクスペリエンス事業を中心とする企業。eスポーツにも積極的でFCバルセロナやアヤックス、ガラタサライ、東京Vなどが参加する「LPE」も設立・運営している。2010年6月に創業。資本金:27億38百万円(2018年9月末時点)、代表取締役CEO:塩田元規