上写真=松山工のゴールを守った伊藤。卒業後はJリーガーとなる
写真◎森田将義

キャンプに帯同し心境変わる

 GKとしての経歴は浅いが、秘めているポテンシャルは特大級。卒業後にJ1神戸へ加入するのが、松山工の守護神・伊藤元太だ。

 189センチの身長と、軽やかな身のこなしが目をひく。大型GKが苦手としがちな足元でのシュートストップが持ち味で、経験を積めば日本代表を狙える逸材でもある。

 元々はボランチとしてプレーしていた。転機が訪れたのは、中学2年の冬。当時の監督に勧められ、練習試合にGKとして出場したところ、初めてとは思えないほどの好プレーを披露した。「ずっとフィールドをやってきたので、新しいポジションに挑戦するのも面白かった。身長が高くて、足も使えるキーパーは少ないから、本格的にやってみようと思った」と、当時を振り返る。

 松山工では“運”も成長を後押しした。先輩GKが負傷していた影響と、坂本哲也監督が最終ラインからのビルドアップの強化を考えていたことから、入学してすぐにスタメンの座を獲得。1年生の夏に迎えたインターハイでは、PK戦でのセービングが視察に訪れた代表スタッフの目に留まり、U−16日本代表候補に選ばれた。

 幼少の頃から将来を有望視されていた他の代表選手とは違い、GKになってから日が浅く、目立った実績もない。物怖じしてほとんど周りと話せない選手も少なくないが、「イジられキャラ」と自己分析する性格で、チームメイトと打ち解けることができた。それも、彼の強みなのかもしれない。

 経験不足によるミスが多く、「食事など試合前後の行動に対する意識が、他の選手と比べて低かった」とも話すが、世代トップクラスの選手と触れあったことで、確実にサッカーに対する意識が高まった。

 2年生の夏以降はJクラブの練習にも参加し、プロ選手の技術やメンタルコンディションの重要性を目の当たりにした。プレーに変化が見られるようになったのは、その頃から。高さと足元の技術を備える一方で、コーチングなどには難を抱えていたが、他校の監督から「キーパーらしくなってきた」と声を掛けられるほど、守護神としての存在感がグンと増していった。

 昨年1月には、長期にわたって、Jクラブのキャンプに帯同。GKコーチから高く評価され、大学進学を考えていた心が、プロ入りへ傾いていった。

 だが、順風満帆に進んでいた高校生活も、ラストイヤーには苦難が続く。3月に左足を骨折したため、インターハイ予選には出場できず、チームも全国への切符を逃した。その間に肉体強化に励み、課題だったひ弱さは解消されたものの、最後の高校選手権予選も1失点に泣き、準々決勝で敗退。成長を実感する一方で、目標としていた選手権での勝利を一度もつかめないまま、高校サッカーの舞台から去ることになった。

 3年生の夏冬に全国の舞台を踏めなかったことは、高校生活の大きな後悔となった。悔しさを晴らすためにも、伊藤はプロの世界での活躍を誓う。

取材◎森田将義

伊藤元太[GK/松山工/3年]
いとう・げんた/2000年7月2日生まれ、帝人SS出身。軽快なステップワークで的確なポジションを取り、相手のシュートを阻止する高体連屈指のGK。今季からJ1神戸に加入する。189cm、75kg