上写真=豪快なミドルシュートを決め、チームメイトに祝福される塩谷(写真◎Getty Images)

 日本がグループFの首位通過を決めた17日のウズベキスタン戦。先制を許す苦しい展開の中、武藤嘉紀の同点ゴールに続いて勝ち越しゴールを決めたのが、塩谷司だった。今大会直前に負傷離脱した守田英正に代わって招集され、合流して間もないこともあり、この日まで出場機会はなかった。だが、先発するや美しいゴールでチームを勝利に導く。その得点は、チームにとっても塩谷自身にとっても価値あるものだった。そんな殊勲者、塩谷は試合後、この日控えだった堂安の顔を見るや表情を崩した。しかも最高の笑顔。それは、なぜだったのか?

塩谷こそが適任者

 塩谷が追加招集を受けてチームに合流したのは、大会初戦の3日前。代表招集は2015年10月以来、3年3カ月ぶりのこと。それでも、しばらく代表から遠い場所にいた塩谷が招集されたのには、確かな理由がある。
 昨年末まで公式戦をプレーしており、試合勘という点で心配がないこと。今大会の開催地、UAEのリーグでプレーしていること。森保一監督とは広島時代にともに戦い、その志向や思考を知っていること。さらに両サイド、CB、ボランチと複数のポジションでプレーできること。

 突然離脱者が出た状況において、これだけの条件がそろう選手は、ほかにはいないだろう。指揮官も話していた通り、やはり塩谷が適任だった。

 そして、グループリーグ首位通過がかかったウズベキスタン戦で塩谷は大仕事をやってのける。58分、セットプレーの流れから相手DFのクリアボールがボックスの外に流れてくると、鋭く左足を振り抜き、ゴール右を豪快に射抜いた。まさにゴラッソ(スペイン語の俗語で素晴らしいゴールの意)。自身にとっての代表初ゴールは、重要な試合の勝利を手繰り寄せ、チームを首位通過に導いた。

「頭が真っ白になりました。チャンスあればボランチだったので、どうにかミドルシュートを打ちたいと思っていた。セットプレー崩れからでしたけど、自分の良さを1つ出せたかなと」

 塩谷が輝いた場所は、所属するアルアインが練習で使うこともあるスタジアム。勝手知ったる『ホーム』で、日本代表の一員として試合を決める活躍を見せた。塩谷自身も「忘れられない日になった」と感想を語っている。

「代表への思いは常に持っています。どこにいこうが自分を高めるだけだと思うし、代表への道という思いは常にもって(UAEに来てから)1年半やってきた」

 日本代表に対して抱いてきた強い思いが、一つの形になったと言える。そしてこのゴールにはもう一つ別の塩谷の思いも込められていた。

思いの詰まったゴール

 試合終了の笛が鳴り、ウズベキスタンに逆転勝ちした選手がピッチから引き揚げてくる。そんな選手たちを、この日、出番のなかったメンバーが列を作り、ハイタッチで出迎えた。

 殊勲者・塩谷が引き揚げてくると、列の途中で表情を大きく崩し、何やら言葉を発した。さらに笑いながら相手の顔を指差しているようにも見えた。会話の相手は堂安律。ほんの一瞬の出来事だが、いったい何を話していたのか。塩谷本人に聞いた。

「ああ、あれですか。堂安に、俺が今日、ミドルシュートの打ち方を教えてやるからなって試合に前に言ってたんで(笑)」

 それで互いに、あんな表情になったのだ。あの指差しポーズは、堂安に対する「見たか!」というサインだったか。そして、そのときの堂安の反応は?

「『あれがミドルシュートか!』って言ってました(笑)」

 試合前に塩谷が堂安に対して、話していたことが現実になった。冗談めかして口にしたのか、はたまた大まじめだったのか、それとも塩谷自身が自分にプレッシャーをかけるべく、あえて口にしたのか。言葉を発した際のテンションまでは分からないが、代表で主軸を担う後輩へのエールという思いもそこにはあっただろう。
 そして、事実としてあるのは、塩谷は試合前に宣言して、実際に勝負を決する鮮烈なミドルシュートを決めたということだ。まさしく有言実行。しかも値千金の、それも大会ベストゴールに選ばれてもおかしくないような美しい一撃で、やってのけた。

 塩谷が明かした2人のやりとりから感じられるのは、現在のチームを取り巻くポジティブな雰囲気だ。2人がともにオープンマインドの持ち主であるにせよ、年齢差を超えて、一緒にプレーするようになって間もないということを踏まえればさらに時間さえも超えて、日本代表チームのもとで選手同士が良好な関係を築いていると分かる。

 長友佑都は前回優勝した2011年のチームと現在のチームが「似ている」と話した。出場機会を得たサブ組が活躍し、先発組を大いに刺激して、チーム全体が活性化。やがて先発もサブもない「総力戦」で頂点に上りつめた、あの大会のチームだ。 

 はたしてウズベキスタン戦で塩谷からミドルシュートのお手本を示された堂安は、決勝トーナメントの試合で、どんなプレーを見せるのか。そして仮に堂安がミドルシュートを決めたら、そのとき、塩谷はどんな反応を見せるのだろうか。

 再び、最高の表情で笑い合う2人の姿が見られるとしたら、それは日本がさらなる高みに到達している、ということになるーー。

取材◎佐藤 景 写真◎Getty Images