上写真=帝京長岡対旭川実は、高校サッカー選手権史上、最長のPK戦となった 
写真◎菅原淳

 第97回全国高校サッカー選手権大会・2回戦は、とくにPK戦が目立ったが、『センシュケン』では過去にも伝説のPK戦と呼ばれる試合があった。あの黒崎久志と財前恵一の対戦だ。短期集中連載の第2回は、帝京長岡対旭川実以前の『最長PK戦』について綴る。

文◎国吉好弘

室蘭大谷 PK15-14 宇都宮学園

 2回戦16試合が行なわれ、うち3試合がPK戦による決着となった。その中で帝京長岡対旭川実の試合は2-2から突入したPK戦で、5人が終えて4-4、サドンデスに入ってからも双方譲らず、19人目で17-16となり、ようやく帝京長岡の勝ち上がりが決まるという大会史上最長のPK戦となった。

 これまでの記録は昭和61年度の第65回大会、国立競技場での準決勝進出をかけた準々決勝で室蘭大谷(北海道・現大谷室蘭)と宇都宮学園(栃木・現文星芸大付)の対戦だった。室蘭大谷には財前恵一(のちに横浜マリノス他で活躍)、野田知(のちに横浜マリノス他で活躍)、宇都宮学園には黒崎久志(のちに鹿島アントラーズ他で活躍)がプレーした優勝候補同士の激しい戦いだった。試合は0-0で決着がつかずにPK戦に突入。双方とも5人が決め、サドンデスでも誰一人失敗しないまま15人目で、宇都宮学園の根岸誠一のキックを室蘭大谷のGK星野元彦が止めて決着がつき室蘭大谷が準決勝に進んだ(PK15-14)。

第65回大会の準々決勝。室蘭大谷対宇都宮学園はPK15-14で決着した。写真は宇都宮学園の黒崎久志(写真◎BBM)

 この試合は千葉総合競技場で行なわれ、当日もう一つの会場である大宮サッカー場(現NACK5スタジアム大宮)で取材をしていた筆者がスタンド下のプレスルームに降りると、日テレの舛方勝宏アナウンサーが千葉会場でのPK戦の様子を電話で聞きながら「入った!」「また入った!」「外したー!」と「実況中継」してくれていて、それを聞きながら現場とは違った緊張感を味わったことが強く印象に残っている。

 今回の帝京長岡と旭川実のPK戦は18人目に至るまでに双方が2人ずつ外したが、すべてのキックがゴールの枠内に飛んだというから選手たちの鍛錬がうかがえる。32年前の30人が蹴ったPK戦では北海道のチームに勝利の女神がほほ笑んだが、今回は北海道のチームが泣くことになった。

 PK戦に関しては、いまだに責任が一人に集中するのは酷だとう声もあり、「PK戦は運」だと割り切る指導者もいる。だが、キックの精度とメンタルの強さ、冷静さなど、サッカーのプレーの要素が必要なアクションであり、FIFAワールドカップの決勝でさえPK戦で優勝が決まるのだから、競技の一部ととらえるべきだろう。いまやPK戦の練習に取り組むのは当たり前のことで、さまざま研究する指導者も多い。いずれにせよ、抽選で勝敗が決せられるよりははるかにいい。