上写真=日々成長を続ける守田。キルギス戦でもその才能を示した

 11月シリーズも追加招集だった。負傷で不参加となった青山敏弘の代わりに、守田英正は9月シリーズ以来、2度目の代表招集を受けた。そして今回は自身の持ち味をしっかりピッチで示したと言っていい。4-0で完勝したキルギス戦の3点目。大迫勇也のゴールにつながる縦パスに、その才能とセンスが表れていた。

ルーズなボールを縦に入れる感覚

 DFもこなすことから、守田を守備的なボランチと見る向きがある。確かに、守備面でも強みを持つ選手だ。ピンチの芽を摘み取る能力に長けている。ただ、それだけが魅力ではない。森保一監督は、別の部分も高く評価しているはずだ。そもそも今回の追加招集は、ボランチとして異彩を放つ青山の『代わり』である。
 思うにそれは、ダイレクトパスの質の高さではないだろうか。しかも守田は躊躇なく縦に入れることができる。パス交換の中で、さらにはルーズボールを、ズバッと前線へ送るのだ。
 こうしたパスの使い手は、Jリーグを見渡してもそうはいない。ただの縦パスではない。ダイレクト(ワンタッチ)である。実際、キルギス戦に先発した守田は、その持ち味を随所に発揮した。それこそ日本屈指のダイレクトパスの使い手である青山を想起させるようなプレーぶりだった。

 所属する川崎フロンターレではドイスボランチの一角を担う。隣に大島僚太がいて、一列前には中村憲剛がいる。その中でパス交換を繰り返し、機を見定めてダイレクトに縦パスを出す。そこから一気にチャンスを広げるケースが今季の川崎Fでは非常に多かった。かつて解説者の川勝良一さんが、類まれなる潜在能力を持ちながら伸び悩むあるクラブの選手について「きっとフロンターレで憲剛や大島らと普段から練習する環境にあれば、大きく開花するだろうに」と話していたことがあるが、大卒ルーキーの守田は、そのフロンターレという環境で日々トレーニングを積み、プレーすることで才能を磨いていったのだろう。

 オフ・ザ・ボールのときには何度も何度も首を振り、手数をかけずにボールをはたく準備を整える。この予備動作はキルギス戦でも頻繁に見られた。「CB2枚で相手のFWをはがせていたので、ビルドアップのところでは下がり過ぎないように、一方のCBのパスコースを作るように考えていた」と試合後に話した通り、引きすぎずに相手の『間』で準備し、川崎Fで見せるのと同じようにパスを繰り出していた。相手が格下であることを差し引いても、自分の特長をしっかり示したと言っていい。スペースが限られる中でボールを受け、瞬時に放して仲間に届ける力は、11月シリーズでプレーした代表ボランチ陣の中においても際立つ。結局、守田はこの日、中盤の選手ではただ一人90分間プレーすることになった。

 その持ち味が分かりやすい形で示されたのは、72分の大迫勇也のゴールにつながったプレーだろう。柴崎岳が左サイドから裏に抜け出す山中亮輔にスルーパスを出したが、ギリギリのところで相手DFにひっかかった。その跳ね返りが中央に流れてきたところを、守田はトラップせずに右足のダイレクトでとらえ、前線の北川航也に届けた。受けた北川が反転しながらヒールで流し、走り込んできた大迫が右足を合わせて得点が生まれている。

「自分の出しやすい方はサコくん(大迫)だったんですけど、そのあとのことを考えると航也につけたほうがスムーズに前向きを作れるかなと思ったので。パスの質自体は良くはなかったですけど、まあ(点を)取れてよかったです。一つ飛ばして、そこから前のアイディア次第ですが、(自分から見て)一つ奥に出すことで、自分の手前の選手が前向きでサポートできるので」

 果敢に裏に走った山中にギリギリのスルーパスを狙った柴崎を含め、一連のプレーに絡んだ選手全員で生んだゴールだが、守田のダイレクトパスが得点の可能性を広げたのは間違いない。左サイドから流れてきたルーズなボールをダイレクトで正確に北川につけた、その判断とスキルは見事のひと言。相手DFの間にポジションを取り、縦パスに反応した北川も素晴らしかったが、守田が手数を手数をかけなかったことで相手DFは付いてこられず、大迫のゴールにつながったと言える。

「後半、ラスト10分、奪われ方が悪かったり、それが3回連続くらい続いたので、そこは次の課題ですね。(手ごたえを得たのでは?)そうですね、ただ、欲を言えば、ゲームメイクという部分において、ラスト10分間、落ち着かせることができなかったですし、攻撃しないというか、前に行かないせよ、ボールを保持してということもできたはずです。そういうところでは自分の特長を出せなかったですね、最後は。
 前半も、もう少し前の選手を信じるというか、自分がそのあとのことを考えすぎたところはあります。前(の選手)は欲しかったというリアクションを取る選手もいましたし、そこは経験というか、すり合わせていかないといけない。パッとできる部分ではないので。でも大体、この試合でつかめたところはあるので、次かなと」

 試合後の本人は、手ごたえを感じつつも反省を忘れなかった。確かに試合の前半や終盤には狙いとするパスが出せないケースや、前線との呼吸が合わない場面もあり、90分間を通して常時、機能していたわけではなかった。それでも、全体として強い印象を残したのは間違いないところ。ダイレクトにパスを繰り出す感覚や技術は、やはりほかの選手にはない特長だ。守田は、今回の合宿と試合を通して代表ボランチとして、その存在をしっかりアピールできたのではないだろうか。

 青山のように、相手との駆け引きの中で自らパスを受けるスペースを作り出すプレーや、裏に抜ける選手にピタリと合わせるロングパスという武器は、まだまだこれから磨いていく段階にある。ただ、ダイレクトで前に入れる縦パスやワンタッチでサイドに展開する守田の才能は、特筆すべきもの。それは簡単に身に付くものではなく、誰もが手にできるものでもない。

 この能力を買って、森保監督は守田を代表に選んだのではないだろうか。将来性を見込んでいるという面もあるにせよ、相手の判断の先をいくダイレクトなパスは、現代表にとっても極めて有効な武器になる。そもそも9月の段階で早々と代表チームに呼んだ指揮官の慧眼にも恐れ入るがーー。

 まだ、青山の後継者というには早い。しかし来年1月のアジアカップ、さらに先をも見据えたとき、ダイレクトパスの次なる使い手が現れたことは、重要な意味を持つ。

文◎佐藤 景 写真◎早浪章弘