上写真=同点ゴールを挙げた町田・大谷のもとに仲間が駆け寄る

 J2初優勝を目指した町田だが、目標達成はならなかった。試合序盤から果敢なプレスでボールを奪い、前に出る勢いも見せていたが、好機を得点に結びつけられないまま後半を迎えると、積極的にボールを動かし始めた東京Vに先制ゴールを許してしまう。しかし、上位争いを続けてきた町田の粘り強さを最終節でも発揮する。82分にセットプレーの流れから追いつき、今季のチームを象徴する諦めない強さを示したのだ。
 そして、その中心にいたのがキャプテンマークを左腕に巻く背番後5番だった。

JFL時代も知るベテラン

 言葉を紡いでいくものの、簡単には頭と心を整理しきれないような様子だった。「最後はやはり勝たないとダメなんだということが、あらためて分かった試合でした」。最終ラインで体を張った深津康太は、そう言って試合を振り返った。

 前節終了時点で東京Vは、首位松本とは勝ち点1差、2位大分とは同勝ち点で並ぶ3位につけていた。最終節で勝てば、松本と大分の結果いかんではJ2初優勝の可能性もあったのだ。とはいえ、J1のクラブライセンスを持たないため、2位以内に入ってもJ1には昇格できない。相馬直樹監督は「頑張ってと言われ、応援してもらえるのはうれしいが、どこかモヤッとしたやるせないものがあった。選手はもっとそうだと思う」と選手の苦しい胸の内を明かしている。

 そんな状況で戦う深津の背中を押したのが、「ゼルビア愛」であったのは間違いない。「野津田(※スタジアムがある公園の名)を満員にしたかったので、グッとくるものはありました」。クラブ史上2番目となる1万13人を集めたスタンドの声援に押されるように、最終ラインを高く設定し、積極的に前に出た。「最初からフルパワーでいこうと、今週ずっと皆で言って決めていたので。前から行く僕らのサッカーをやって、負けたらそれでいいし、勝ったらなおさら良かったですけど、後悔しないようにと思っていて」。その思いが試合に集中できた要因でもあった。

 しかし後半に入って相手に流れを渡すと、先制も許した。ただ、失点後の展開は、今シーズンの町田を象徴するものだったと言える。「今年は(点を)取られた後、また取り返してくれるというか、取り返す気持ちが強くなった。諦めない姿勢というのは見せられたと思う」。深津の言葉を証明する82分の同点ゴールと、終盤の攻勢だった。

 今年の躍進の要因を、相馬監督は「選手は(相手との)入れ替わりの怖いサッカーをやっている。リスクもあるが、勇気を持って自分たちから奪いに行く姿勢を示し続けてきたから」と説明した。そんなチームを後方から支え、押し上げたのが、深津らが構成する最終ラインだった。

 目標としていた6位以内には入ることができた。ただ深津は、「また来年新たなチャレンジをしたい」と早くも自分を奮い立たせていた。J1クラブライセンスの取得へ向けて、クラブは新体制に移行し、夢を現実とするべく動き出している。クラブのJFL時代も知る男は、「上がっていく一方だと思う」と、町田の今後に思いを馳せた。

「本当に楽しみながらやりたいし、できるところまで悔いなくやりたい」

 34歳のベテランは、まだまだ仲間の背中を押し続ける覚悟だ。

取材◎杉山孝 写真◎J.LEAGUE PHOTOS