上写真=ベネズエラ戦では収穫を手にした一方、課題も出た。その点では意義のある『テスト』マッチになった

 11月16日、日本代表は大分でベネズエラと対戦し、1-1のドローに終わった。そこで見えたものは、現代表チームの強みと急ぎ解決すべき課題だった。

■2018年11月16日 キリンチャレンジカップ
 日本 1-1 ベネズエラ
 得点:(日)酒井宏樹
    (ベ)トマス・リンコン

前線のセットをもう一つ

 試合前、交通渋滞に巻き込まれて両チームともに選手バスの到着が大幅に遅れるトラブルに見舞われた。ベネズエラは試合開始45分前、日本も40分前にスタジアムに到着。両チームはアップもままならないまま、慌ただしく試合をスタートすることになった。

 だが、そのことが大きくゲームに影響することはなかった。何より、相手も条件は同じだ。開始12分に相手の浮き球パスを佐々木翔がGKシュミット・ダニエルへ頭でパスしようと試み、シュミットと冨安健洋とが一瞬、お見合いしてベネズエラのFWロンドンにボールに触られる場面があった。あわや失点というシーンを作られたが、冨安が辛うじてゴールラインを割るぎりぎりのところでクリアして事なきを得る。日本にとって、前半のピンチはこの場面を含めても数えるほど。この日は吉田麻也と冨安がCBコンビを組み、GKをシュミット・ダニエルが務めたが、この3人は初めて同時に起用されたとは思えないほどユニットとして安定していた。
 とりわけ197センチのシュミット・ダニエル、188センチの冨安、そして189センチの吉田は高さという点でもこれまでにない強みをもたらす。今後もまだまだ連係を深める必要があるにせよ、これまでセットプレーの守備でたびたび問題を抱えた日本が、その課題に対する一つの答えを出したとも言える。

 そして、攻撃面では現チームの看板となりつつあるカルテットが存在する。1トップの大迫勇也、そして2列目に並ぶ中島翔哉、南野拓実、堂安律だ。彼らのスキルフルなプレーが見られるようになると、すぐに試合の流れを引き寄せた。26分には大迫→堂安、30分には吉田の縦パスから南野、34分には大迫→中島と、矢継ぎ早に相手ゴールに迫ってみせる。そして39分に、待望のゴールが生まれた。
 堂安が倒されて得たFKの場面。敵陣の右サイドから中島がゴール前にボールを入れると、ファーサイドに飛び込んだ酒井宏樹がボレーで合わせ、ネットを揺らした。
 ここまでは日本のペース。FIFAランキングが29位で、日本の50位に対して格上に当たるベネズエラに対し、守備は危なげなく、攻撃では何度もチャンスをつかみ、過去3戦で見せてきた日本の持ち味をしっかり示してみせた。

 後半も立ち上がりから指揮官の強調する『連動性』を発揮してチャンスを生みだしていく。ただ、得点に結びつけることができず、次第にペースが落ちてしまう。そこで活性化を狙った数度の選手交代が行なわれたが、前線のカルテットの構成が変わると、ボールが循環しなくなった。

 80分、スキを突かれてペナルティーエリア内で相手にボールを持たれ、背後から守備に入った酒井宏がファウル犯してしまう。相手にPKを献上し、リンコンに決められ、追い付かれた。残り10分間、日本はもう一度、攻撃に重心を傾け、最後は吉田を前線に上げるパワープレーにも出たが、1点は遠く、結局ドローでゲームを終えた。
 前述の通り、ベネズエラは簡単な相手ではない。それでも日本のホームであること、そして決定機の数を比較すれば、勝てない相手ではなかったという印象も残る。実際、主将の吉田も「個人的には勝つべき試合だったと思う」との感想を述べている。

 この試合の収穫の一つは、前線のカルテットがやはり攻撃のセットとして有用だということを確認できたことだろう。チャンスを創出し、ゴールを生み出す力がある。そして、トライした新たな守備セットが高さという、これまでにないプラスをもたらし、機能したことも収穫に挙げられる。
 一方で課題として浮き彫りになったのは、10月のウルグアイ戦で称賛を浴びた前線のユニットと、試合途中で交代した選手たちの『違い』だ。局面を動かし、好機を作る先発の4人と、交代で入った杉本健勇、北川航也、原口元気、伊東純也とが構成したユニットでは打開力という点で大きな差があった。むろん、一緒に組んだ時間が短く、コンビネーションの深度に違いはあるにしても。

 その点については森保監督も言及している。

「後半の交代出場で投入した選手たちは、攻撃の部分で時間差で投入したこともあり、勝っている状況の中でどうやっていくかという部分で考えていたと思いますし、コンビネーションを使う部分では難しい状況だったと思います。ただチーム全体で試合を勝ち切るために、交代出場の選手が試合を決める、あるいは試合を締める、という戦いができるように、準備としてはやっていかないといけないと思います。
 攻撃について、チームとしてのバリエーションとして、長い時間を戦っている今日のスタメンの前線、1トップと中盤の3枚の選手のプレー時間が長いという部分でコンビネーションや連動は上がってきていると思います。ですが、チームとして(前線に)もう1セットくらい、もっと選手層の幅とチーム力をアップさせるためにも、より多くの選手が絡んで来れるようにやっていかなければならないと思います。私自身の仕事として、そう思っています」

 前線のカルテットによる化学反応は相手にとって脅威となり、見ている者にとっては大きな魅力となっているが、その反面、彼ら以外の構成では化学反応を起せないという現状がある。同じ種類の化学反応でなくとも、攻撃のバリエーションを生むような選手と組み合わせの発掘は、確かに必要だろう。指揮官はそれを「私自身の仕事」と言った。

 アジアカップ前に組まれているテストマッチは、11月20日のキルギス戦のみ。ある程度メンバーを入れ代えて臨むことが予想されるが、その試合で指揮官は「仕事」に着手することになる。

取材◎佐藤 景 写真◎Getty Images