上写真=今年は涙ではなく、笑顔でシャーレを掲げた中村憲剛(写真◎毛受亮介)

上げる質は攻撃だけはない

「グラウンドは嘘をつかないと思う」

 川崎フロンターレがリーグ2連覇を成し遂げた後の取材エリア。38歳のベテラン、中村憲剛は言葉にそう力を込めた。日々、チームが取り組んできたことの成果が、残り2試合を残しての独走優勝であった。

「去年、(自分たちが)やるべきことは見えたので、その質の追求、ただそれだけだったと思います。相手が分析や対策をしてきても、勝ち点を取れるという試合が増えた。何かを変えたわけでもない。自分たち一人ひとりの質を上げることで、チームとして質も上がっていく。その作業となる日々の練習をみんなが真摯に取り組んだ結果、誰が出てもある程度、結果を残せるチームになってきました。自分たちがやるべきことをやれば違う次元にいけるサッカーになる。それを目指せる環境がある」

 ボールを保持し、パスをつないで押し込んでいく。ボールを失っても素早いプレスで回収し、再び攻撃につなげていく。フロンターレのサッカーは、全員の高い意識のもとで強靭化された。
 一昨年にリーグMVPを獲得し、昨年には悲願の初タイトルを獲得した中村。今年に入ってもモチベーションが下がるどころか、目いっぱい上昇しようとする彼がいた。シーズン当初にはこんなことを語っていた。

「サッカーがうまくなりたいって、それだけですから。MVPをもらおうが優勝しようが、うまくなることに対する欲は変わらない。パスを通す、通せない、丁寧にできている、できていないとか、そこがうれしいし、悔しいし。自分の思ったとおりにできるかどうかの積み重ねが日々の練習にあって、そこに試合が入ってきて勝ち負けがある。しかも相手も違うし、試合でもまったく同じシチュエーションってないじゃないですか。ここにもうれしさ、悔しさがあって、また練習やって、また試合がある。結局は尽きないんです」

 上げる質は攻撃のみにあらず。
 今季、中村のプレーで特に目立っているのがゴールに直結するボール奪取である。

 4月21日のホーム、鹿島アントラーズ戦では味方のバックパスをかっさらって自らゴールを奪い、5月20日のホーム、清水エスパルス戦でも相手にボールが入るところを狙い撃ちしてゴールを決めている。9月15日、ホームのコンサドーレ札幌戦ではボールを奪ってから家長昭博の先制点を演出。中村の守備から〝7発ゴールショー〟が始まったのだ。
 優勝後の囲み取材でも、守備の醍醐味を強調する彼の姿があった。

「自分が(守備の)スイッチャーになることが自分の成長にもつながる。(そうすることで)後ろが(ボールを)取ってくれる、ショートカウンターで点が取れる楽しさもこの年齢になってはじめて覚えているところもある。逆にそれがなかったら多分(試合に)出してもらえてないと思うし。去年以上に自分を追求できる1年だったなと思う」

 今年は去年以上のモチベーション、来年は今年以上のモチベーション、きっとその繰り返し。嘘をつかないグラウンドが、中村憲剛の進化を支えている。

取材・文◎二宮寿朗 写真◎毛受亮介