上写真=決勝点を挙げた大島。イニエスタとの対戦については「やっぱりうまい」と感想を語った(写真◎J.LEAGUE PHOTOS)

 10月20日、各地でJ1第30節が行なわれ、首位・川崎フロンターレはヴィッセル神戸とホームで対戦。ゲームの主役はイニエスタではなく、川崎Fの『攻撃』を作った選手たちだった。圧巻のゴールラッシュ。中央突破とサイド攻撃、パスワークとドリブルワーク。とくに後半は自在にペースとルートを変えながら、神戸を圧倒した。

■10月20日 J1リーグ第30節
川崎F 5-3 神戸
得点者:(川)小林悠、家長昭博、齋藤学、大島僚太、エウシーニョ
    (神)OG、古橋亨梧、三田啓貴

想像力と技術力の結晶

【動画】川崎Fが神戸を相手に圧巻のゴールラッシュ!

 川崎Fは小林悠のPKで先制しながらも逆転を許す苦しい戦いを強いられた。しかも、前半35分の時点で1-3と2点差をつけられている。14時開始の清水対広島が0-2で終わり、勝てば2位広島との差を4ポイントに広げられる状況に、先行を許したのだった。
 試合前には鬼木達監督が「勝てば優勝へ近づく」と選手に発破をかけていたが、川崎Fは試合の入りに失敗した。

「前半は少し、ボールを握りたいがゆえに高い位置から(奪いに)行き過ぎてしまった部分がありました。ただ、1-3となって、行くときはしっかり行かなきゃいけない、後ろもしっかりついていくというところで、そういうメリハリの部分を気をつけようと心掛けました」

 選手たちに焦りはなかったという。2点差をつけられてから、本来の姿を取り戻していく。攻撃のバルブを開き、あの手この手で神戸陣内に攻め入った。前半のうちに素早いパス交換から家長昭博が大島僚太のクロスに飛び込んで追撃のゴールをスコア。そして後半を迎えると、幅を取り、人を追い越し、ボールを素早く回す川崎Fのスタイルが、次々とピッチに描かれ始めた。同点弾は、齋藤学。左サイドからドリブルを仕掛けると、ボックス内まで入り込み、左足を振り抜いてネットを揺らす。今季加入後、初ゴールだった。

 後半早々に3-3とすることに成功した川崎Fは、攻勢をますます強めていった。そして69分に今季のベストゴール候補に推挙されるであろうゴールが生まれる。

 ピッチ中央の中村憲剛が右サイドのエウシーニョへ展開→エウシーニョが右サイド前方のスペースに走る知念慶にパスを送る→知念がエウシーニョにバックパス→エウシーニョがエリア中央から近づいてきた家長に横パス→家長昭博がパスの勢いを殺すことなく絶妙なヒールパス→エリア内に走り込んだ大島僚太がダイレクトで左斜め前にいる小林悠にはたく→小林もダイレクトで大島に折り返す→DFの背後に進入した大島が左足でゴールを射抜き、勝ち越しに成功した。

 一瞬で複数人が同じ絵を頭に描き、フィニッシュに至った美しいゴール。かかわった人数も、パスの精度も、そして発想力も、めったにお目にかかることのできないゴールだろう。想像力と技術力の結晶のような一撃。川崎Fの理想が具現化されたものと言えるのかもしれない。

「あの瞬間は振り返っても、あまり覚えていないというのは本当なんで。ただ、あの瞬間は流れがあって、全員が顔を出しているところで、選択していったという感じ。僕はその前にチャンスになるところで(ボールを)失ってしまっていたので、そのチャンスをつぶした分、どこかで貢献しなければいけないと思っていたので。そっちの気持ちが前向きなプレーになったかなと思います」

 勝ち越しゴールをスコアした大島は、言った。

 その後、エウシーニョが加点し、川崎Fは神戸を押し切って勝利をつかむ。イニエスタ効果もあって超満員の等々力競技場が大逆転勝利に沸き立ったのは言うまでもない。しかも、これ以上ないほど川崎Fらしい、勝ち方で2位広島との差を広げたのだ。

「(優勝を)意識しないと言ってもどうしても(広島の)結果を耳にしていましたし、勝てば(ポイントを)広げられるということでプレッシャーも多少あったと思います。そういう中で言うと、今後も試合の入りをしっかり気をつけなければいけない。そう、あらためて思いました」

 優勝争いの行方を占う意味から、さらに昨季J1王者とイニエスタ率いる神戸が対戦するという点でも注目度が高かった試合は、川崎Fの逆転勝利で決着した。ただ、決勝点を挙げた殊勲の大島は勝ってなお、気を引き締めることを忘れなかった。

 残り4試合。勝つべき試合できっちり勝ち点を上積みした王者・川崎Fが、連覇へ向けて大きく前進した。何より、『らしいスタイル』を完遂して勝ち切ったことに大きな意味がある。

取材◎佐藤 景 写真◎J.LEAGUE PHOTOS