日本のミッションは明白だった。決勝トーナメント進出。そのために90分間を使った、そんなゲームになった。試合は0-1で敗れたが、日本は花を捨て、実を取るリアルな戦いで、ネクストステージの扉を開けた。

■グループステージ第3戦
日本 0-1 ポーランド
得点:(ポ)ヤン・ベドナレク

終盤、負けているにもかかわらず攻めないことでブーイングを浴びた日本だが、16強進出というミッションをきっちりクリアした(写真◎福地和男/JMPA)

先発を6人変更

 試合前、先発が発表されるとメディアの間で驚きの声があがった。重要なゲームに初先発の選手が6人いたからだ。酒井高徳、槙野智章、山口蛍、宇佐美貴史、岡崎慎司、武藤嘉紀。しかも酒井高、槙野、武藤はワールドカップのデビュー戦だった。そのうえ、酒井高にいたっては本人も認める、右サイドハーフという不慣れポジションでの起用である。

 西野朗監督は「総合的な判断です。勝ち上がることを自分の中で前提として考えていました。もちろん出ていない選手を起用したいという気持ちだけで、メンバーを変更したわけではない。やれる、戦える、勝てると(考えた)。3戦目で目に見えない疲弊をしている、ダメージもある。6人を起用したのは、いい状態であったし、間違いなく同じチームスピリッツでやれる選手を起用しました。(この起用が)不正解とは一切思っていないです」と説明した。

 好調なチームに手を加えるのはどんな監督であっても大きな決断だ。そして西野監督はズバッと決断した。この胆の据わり方が、現在の日本代表チームの特徴と言えるかもしれない。
 
 そのことをゲームの終盤にも痛感することになった。

突破のために攻めないという判断

 前半から何度もチャンスをつかみながら日本はゴールを決められず、後半になって最も警戒していたセットプレーで失点してしまう。59分、相手のFKの場面でゴール前でヤン・べドナレクをフリーにしてしまう、易々とネットを揺らされた。

「マークを外してしまったことが悔しい」と酒井高は振り返ったが、密集の中でエアポケットのように、そこだけが空いていた。大会前から改善点として指摘されてきたセットプレー時の守りの問題が、大一番でも露呈することになってしまった。さらに、この悔やまれる失点は、ポーランドの攻撃を加速させた。一方で日本も点を取りにいかざるを得ず、前がかりになって、逆にカウンターを浴びるケースが増え始める。

 だが、このお互いに攻め合う展開は80分までだった。82分に長谷部誠が武藤に代わってピッチに登場すると、日本は無理に攻めず、ボールを回して時計の針を進める策をとる。他会場でコロンビアがセネガルに1-0でリードしているとの報が届いたからだった。
 
 勝ち点と得失点差で並ぶ日本とセネガルは、フェアプレーポイントで日本がセネガルにまさっていた。その差はイエローカード2枚分。だからピッチに入った長谷部、仲間に「無理に攻めて失点しないこと。警告をもらわないこと」を伝えていたという。
 
 ポーランドにリードされながら攻めない日本の姿勢に、会場では大ブーイングが起こった。それでも日本はボールを回し続け、ポーランドもそれに付き合うように、時間をやり過ごしていく。そしてーー。

史上初をかけた戦いへ

 試合終了の笛と同時に、ブーイングと日本サポーターの歓喜の声が入り混じった歓声がスタジアムを包んだ。勝ちあがるために日本が80分過ぎから取った選択は、セネガルが同点に追いついてしまえば、完全に誤った選択になる。その可能性も少なからずあったはずだが、西野監督はリスク管理して時計の針を進めるように指示をしたのだった。

「非常に厳しい選択。万が一という状況は、このピッチ上でも考えられたし、もちろん他会場でも万が一はあり得た。そこで選択したのは、そのままの状態をキープするということ。このピッチで万が一が起こらない状況を選びました。他力を選択したということです。ゲーム自体に負けている状況で、キープしている自分というのも納得いかない。不本意な選択でしたが。
 自分の中でも、攻撃的に、アグレッシブに戦ったグループステージの1戦、2戦を考えれば、この選択はまったくなかったものです。ただ状況が状況だったので、自分の中になかったプランの選択をした。信条的には納得できなかったですが、選手に遂行させました。
 W杯は、そういう戦いもあり、選択が正解であれば、勝負にも勝ったということだと自分では思います。チームとしてもそう思いたいし、そういうフットボールがあってもいいのかなと、初めて感じたゲームでした。グループステージを突破するための究極の選択かもしれない。自力ではなく地力を選んだことに、少し後悔はある。ブーイングを浴びながら選手たちにプレーをさせたことは、自分の信条ではない。これから選手に、いろいろ伝えたいと思います」

 西野監督が『ブレなかった』のは、戦い方の選択に関してではない。決勝トーナメント進出というミッション遂行のためにすべての力を注ぐという、その信念に関してだ。

「最後は見てくださっている方々にはもどかしいサッカーになってしまったかもしれないですけれど、これが勝負の世界なので。次にいけるという結果を得たというのは非常に大きいと思いますし、次のベスト16の戦いに向けてしっかりやっていきたいと思います」

 途中でピッチに入り、選手の考えを一つにした長谷部キャプテンはそう言った。この日の試合は、確かにブーイングされた。ただ、これもワールドカップの一面だろう。理想と現実の折り合いをつけながら次の扉を開いていく。2戦で勝ち点4を得て、ライバルよりもクリーンに戦ってきた日本だから、それができる立場にあったということもできる。

 日本が大会前に掲げた最低限のミッションは、ここでコンプリートした。次は史上初のベスト8をかけた戦いに挑む。

「(グループステージを突破した)達成感は意外とというか、もうちょっとあるモノかなと思ったんですが、意外になくて、これからが本当の戦いだと感じてますし、今まで日本代表が成し遂げられなかったベスト16の壁というのにチャレンジしなければならないと思っています。僕はイングランド、ベルギー、どっちでもいいと思っているので、本当に自分たちはチャレンジャーとして良い結果を出したいです」

 今大会で存在感をいっそう高めている柴崎岳はそう言って、次の試合に目を向けた。決勝トーナメント1回戦は、日本時間の7月2日、深夜27時からロストフ・ナ・ドヌで行なわれる。相手は、グループGの1位ベルギー。

「ここからはすべてが起こり得る。一発勝負なので。力の差はそこまで、特にベスト16、8というのはそんなに感じないと思いますし、ベスト4、ファイナルは分からないですけど。僕のチャンピオンズリーグの経験上ではベスト16、8というのは何が起こるか分からない。楽しみですね」

 香川真司の言うように、これからは一発勝負。何が起こるかわからない。2002年、2010年に続く3度目の16強。日本は3度目の正直で、ベスト8進出を狙う。

取材◎佐藤 景 写真◎福地和男/JMPA