■2018年6月2日 J2リーグ第17節
千葉 2-2 山口 
得点者:(千)指宿2
    (山)オナイウ、前
 
山口は終了間際に追いつき、引き分けに持ち込んだ。これで6戦負けなし。1点を先制された32分、オナイウ阿道のゴールで同点とするが、すぐに千葉に勝ち越され、1点ビハインドのままハーフタイムへ。後半は一進一退の攻防が続いたものの、終了間際に三幸秀稔のクロスを前貴之が頭で合わせて、再びスコアをタイに戻した。千葉は2度のリードを守れず、痛恨のドロー。再三の決定機も生かせなかった。

※今季から山口でプレーする坪井。38歳になっても快足を生かしたインターセプトは健在。 写真◎J.LEAGUE PHOTOS

「失点はしたけど、それなりに守れた」

 179センチ。センターバックとしては小柄な部類に入ると言ってもいい。山口の坪井慶介は、足りない上背を読みとスピードでずっとカバーしてきた。プロキャリア17年目。浦和のCBとしてJ1リーグ制覇、ACL優勝などを果たし、日本代表としてもドイツW杯にも出場した。その実績と経験はフロックではない。38歳になっても、快足を生かしたインターセプトは健在だ。

 千葉戦では195センチの指宿洋史、186センチのラリベイに競り負ける場面はあったが、すぐにセカンドボールに反応。コンビを組む渡辺広大とチャレンジ・アンド・カバーを繰り返し、なんとかしのいだ。「一人がつぶれ役になって、もう一人がカバーに入ればいい。失点はしたけど、それなりに守れたと思う」

 百戦錬磨のセンターバックは、涼しい顔で試合を振り返った。1対1の場面では激しく体をぶつけ、ハイラインもしっかりとコントロール。裏のスペースを必死にケアしながら、後方からチームを支えた。86分に交代し、終了間際の劇的な同点ゴールはベンチ横で眺めていたが、大はしゃぎすることはなかった。「追いつけたことはプラスですが、ここからが大事なので。次の試合で勝たないと、きょうの引き分けは意味がなくなる」と表情をすぐに引き締めた。

 ただ、試合終了後、ゴール裏に駆けつけたサポーターへ挨拶を終え、メインスタンドに駆け寄ると、厳しいベテランの頬がゆるんだ。この日の会場には、遠く離れて暮らす家族が観戦に来ていたのだ。山口には単身赴任しており、3人の子どもと会うのは約1カ月ぶり。スタンドの最前列には、山口の背番号2を着た「小さなサポーター」がうれしそうに並んでいた。
 
 坪井は手を振り、ピッチとスタンドの間で少しだけ会話を交わすと、別れ惜しそうにロッカールームへ。「ほとんど話せなかったですね」と苦笑した。チームはすぐに飛行機とバスで山口へとんぼ返り。あすはリカバリートレーニング。自宅がある関東に遠征に来ても、家族団らんの時間もない。中学生の長男はサッカーに打ち込んでおり、父親と同じセンターバックだという。しかも、快足。「大変だから、やめておけと言ったのに」と苦笑する顔は、どこかうれしそうだ。

 中学生の息子は、もう気づいているだろう。「(息子は)僕のプレーについては何も言ってこないけどね」と本人は照れ笑いを浮かべるが、きっと感じているはずだ。長身の屈強なFWと渡り合う父は、やっぱり偉大だったと――。

文◎杉園昌之 写真◎J.LEAGUE PHOTOS