■2018年5月16日 ヨーロッパリーグ決勝(フランス/スタッド・ドゥ・リヨン

 アトレティコ・マドリード(スペイン) 3-0 マルセイユ(フランス)
 得点者=(ア)グリーズマン2、ガビ

夢の終わりは残酷だった。欧州のクラブ2大タイトルの一つであるヨーロッパリーグの決勝。4月に負傷離脱したマルセイユの日本代表DF酒井宏樹は、この試合への出場を目指して懸命にリハビリを進めてきた。何とか間に合ったものの先発はならず、ベンチスタート。そして最後までピッチに立つことなく、チームの敗戦を見届けた。

※ピッチ上でのアップでは笑顔も見せていた酒井だが、最後まで出番は来なかった
写真:Getty Images

「もちろん、すごく出たかった」

「ここまで調整してきただけに、すごく残念だったけど、納得しています。コンディションもフィジカルも不十分で、頭もすっきりしていなかった。単にブナ(この日、酒井のポジションである右サイドバックを務めたサール)の方が良い状態という選択だったと思う」

そう語った酒井は、試合終了のホイッスルとともにピッチ上に崩れ落ちたサールに歩み寄り、手を引いて起こした最初の選手だった。だが、そんな言葉や態度とは裏腹の悔しさが、心中を支配していたようだ。報道陣から「納得?」と聞き返されると、「そういうふうに落ち着かせるしか、今の僕にできることはない」と唇をかみ締めた。「もちろん、すごく出たかったし、みんながああやって涙を流しているのを見ると、そこまで、悔しい思いをするまでできなかったことが、非常に悔しい。またこういう舞台で試合ができる機会を、自分たちで作ることができればいいと思う」。言葉の端々から、無念の思いが伝わってきた。

決勝だけを見れば、完敗。しかし、ここまでの道のりを振り返れば、その軌跡には酒井の活躍と、魔法のパフュームが漂う。

マルセイユがヨーロッパリーグの予選を戦い始めたのは、昨年の7月27日。そこから決勝に至るまでの長い、長い道のりのなかで、実は5回も敗れている。いつ敗退してもおかしくなかったが、その気迫に火がつけば、どんなチームにも勝ち得る何かを秘めていたマルセイユは、苦境に陥るたびに劇的な勝利をつかんで勝ち上がった。

その際たるものが、ライプチヒ(ドイツ)を下した準々決勝第2戦、酒井が伝説の5点目を決めた一戦だろう。いつも地味な仕事を重ねて貢献する酒井が決めたダメ押しのゴールは、何度も攻め込まれ、あと1点奪われれば敗退という危機にさらされていたマルセイユを、重圧から解き放った。そして、そこでついた火が、マルセイユと観衆を決勝の舞台まで一気に押し上げることになった。

だが決勝では、その火が一度もつかなかった。立ち上がりの4分、パイエの絶妙のパスで抜け出したジェルマンが先制点を決めていれば、展開は全く違ったものになっていたかもしれない。マルセイユは21分に自陣でのつまらないミスから、手痛い先制点を献上。酒井が試合後に「アトレティコ相手に0-1になってしまうと、もう完全に試合の主導権は向こうにいく。その後は攻めさせられている感じで、僕らが攻めている気は全然しなかった」と認めたように、この先制点が試合の流れを決定付けることになった。

そもそも実力的には十中八九、アトレティコが勝つと思われていた。勝つためにはマルセイユの選手たちでさえ、奇跡とは言わないまでも、並外れたパフォーマンスが必要だと認めていた。だが、奇跡に必要な火をつけるはずだった最初の得点機を逃し、このレベルではあり得ないミスから失点。32分には、マルセイユの創造力の要であるパイエが負傷交代し、追加点を奪われて0-2で迎えた81分には、ミトログルの決定的なヘッドがポストに当たるなど、この日のマルセイユには不運が重なった。

「相手が相当うまかった。特にディフェンスラインと中盤は素晴らしく、あのバランスの取り方は本当にすごいと思った」

相手の実力に脱帽した酒井は、「仲間はみんな、気持ちは入っていた。でも(得点機を)決められるかどうかは、すごく小さい差かもしれないけど、勝敗を分ける。アトレティコと僕らでは、やはり経験の差が大きかった」と語り、こう続けた。

「しっかり、ここで悔しい思いをして、また戻ってくることができればいい。こういう舞台で何ができるのか、が大事。これで終わりじゃない。何度も言うように、また戻ってくるべき場所だと思う」

今季が始まったころ、マルセイユが決勝の舞台まで勝ち上がるとは、誰も予想していなかった。酒井とマルセイユがやってのけた小さな奇跡の物語には、必ず『続編』があるはずだ。

試合後、サールに歩み寄る酒井。ピッチに立てなかった無念を押し殺し、仲間を気遣った

取材◎木村かや子(フランス在住) 写真◎Getty Images