浦和は決め手を欠き、札幌と引き分けた。序盤から主導権を握ったものの、柏木らが決定機を生かしきれなかった。元浦和のペトロヴィッチ監督が率いる札幌はGKク・ソンユンを中心とした粘り強い守備でゴールを死守。スコアレスドローで勝ち点を分けた。
■2018年4月21日 J1リーグ第9節
浦和 0-0 札幌
槙野「まだまだ学べるものがある」
攻めあぐねて、スコアレスドロー。それでも、試合後は埼玉スタジアムの真っ赤に染まったゴール裏からは万雷の拍手が送られた。
黒のスーツにオールバックで決めた浦和の指揮官は大声援に軽く右手を挙げて応えると、ゆっくりとロッカールームへ消えた。この日が暫定監督としては最後の試合となった。
4月2日から21日までの仕事ぶりは、完璧だったと言ってもいいだろう。
戦績は公式戦6試合、4勝2分け。
一度は沈みかけた船だった。リーグ戦5試合勝利なし。浮上の兆しすら見えず、自信を失いかけていたチームをがらりと変えた。
ミーティングでの言葉には熱がこもった。
「キミたちはうまい。自信をもってやれ」
感情に訴えかけるだけでなく、起用する戦術の有効性を論理的に説明してみせた。分析担当を長年経験した実績はフロックではない。効果的に映像を使うのもお手のもの。選手たちの役割を明確にした。攻撃マインドの強い槙野智章らの守備陣には「キミたちはまず守るのが仕事だ」と。それぞれのポジションに応じて、やるべきことを整理した。何よりも簡潔で分かりやすかったという。
「情報のフィードバックが的確で、話術が巧みだった。選手たちへの伝達能力が高いと思った。チームがいままで以上に一つにまとまれた。大槻さんからは、まだまだ学べるものがある」(槙野)
槙野は最後まで心惜しそうだった。前節の清水戦のあとにも「代わるのはもったいない」と漏らしていた。
ホームの入場者数は一時3万人を割っていたが、この日は3万9091人。わずか1週間で約1万人も増加している。結果を出し続けたこともあるが、監督のキャラクター作りも少なからず影響していたはずだ。エンターテイナーの槙野も認めている。
「日本でお客さんを呼べる数少ない監督だと思う。ベンチ前でのパフォーマンスもそうだし、雰囲気もそう。(ディエゴ・)シメオネ監督(アトレティコ)を意識しているのかな(笑)」
在任期間はわずか3週間足らず。連戦が続き、トレーニングもままならないなか、浦和の危機を救った手腕は評価されてしかるべきだろう。最後の監督会見では、浦和のトップチームを指揮したわずかな期間を満足そうに振り返った。
「一体感を持ったトレーニングができた。グループとしての勝利だった」
4月22日からは、かつて鹿島をリーグ3連覇に導いたオズワルド・オリヴェイラ監督にバトンを引き継ぐことになっている。
文◎杉園昌之 写真◎Getty Images