Jクラブのスカウトが熱視線を送る、プロ入り確実と言われる逸材をピックアップする。
第1回は松本など複数クラブが興味を示す、桐蔭横浜大が誇るナンバー10の魅力に迫る。

プロでも10番をつける

古き良き時代の10番の雰囲気が、そこはかとなく漂う。
ゲームメークしながらゴールを狙い、意外性あふれるテクニックで見る者を惹きつける。桐蔭横浜大の石川にボールが入ると、何かが起こる。敵が密集する前線の中央でボールを受けても、相手の逆を取り、軽くいなしてしまう。余裕たっぷりの表情でキープする姿は、元アルゼンチン代表MFのフアン・ロマン・リケルメを彷彿とさせる。

「試合になれば、自信を持ってプレーしています。焦ることはほとんどないです」と胸を張る。プロの目から見ても、石川のスタイルは異質に映っていた。J1クラブの某ベテラン・スカウトは賛辞を惜しまない。
「雰囲気があるよね。タメをつくれるし、面白い存在。プロでも通用する。最近はめっきり少なくなったタイプ」

本人は幼い頃から中村俊輔(現ジュビロ磐田)に憧れて育ち、プレースタイルも自然と影響を受けた。お気に入りの背番号もアイドルと同じ。「中学生の頃からずっと10番ですね」と茶目っ気たっぷりに笑う。

水戸啓明高時代には全国高校選手権に出場。ベスト16まで進んだが、そこで天狗になることはなかった。松本山雅の練習にテスト参加し、プロとの差を痛感したからだ。悔しさ以上に「このままではいけない」と気持ちを入れ替え、桐蔭横浜大へ進学。本人は「とてもプロでできるレベルではなかった」と高校時代を振り返るが、当時から石川をチェックしている松本のスカウトは将来性を見越し、獲得するかどうかで悩んだと言う。今もその才能を認めており、熱い視線を送り続ける。

試合でひょうひょうとプレーする石川も、練習ではひたむきにボールを追っている。大学1年生から先輩の助言に真摯に耳を傾け、前線でボールキープできるようにフィジカル能力に磨きをかけた。筋肉隆々には見えないが、体幹がしっかりしており、簡単には倒されない。ポストワークはケルンの大迫勇也、浦和レッズの興梠慎三らのプレーを参考にして、技術の向上に励む。
「ボールを受ける前に、相手に体を当てるタイミングなどを見ています」

関東大学リーグではJ1・2クラブのスカウトらが目を光らせており、Jリーグ入りはほぼ間違いないと言われる。本人の志は高い。ただプロになるだけではなく、「そこで活躍しないと意味がない」ときっぱり。

「将来はプロでも10番を付けたい」
遠慮がちな口調にも自信がにじんでいた。

(取材・文◎杉園昌之)
 

【プロフィール】
いしかわ・だいち/1996年2月22日生まれ。茨城県出身。水戸啓明高では全国高校選手権に出場し、ベスト16に貢献。全日本大学選抜経験あり。178センチ、73キロ。

※サッカーマガジン9月号掲載の大学支局を再構成し掲載しています。