開幕から好調の鹿島アントラーズユース。
クラブのポリシーを示すアタッカーに迫る。
献身を合言葉に戦う鹿島イズムの体現者
ディフェンスラインから丁寧にボールを回す、いわゆる〝ポゼッション志向〟のサッカーを展開するチームもある。だが、深紅のイレブンは、まずはしっかりと守備のブロックを固め、相手に徐々にプレッシャーをかけていく。
「我慢しながら接戦を勝っていきたい。目標は(プレミアリーグ)残留です」。熊谷浩二監督が謙遜した表情でそう話す通り、守備に重きを置きながら、セットプレーから得点機を見出し、開幕から5試合を終えて4勝を挙げた。
「地味だけれど、チームの力になっている。潤滑油のような存在」。そう熊谷監督が評すのは、2トップの一角を担う渡邉だ。
「自分は技術がある選手ではない。泥臭く、チームのためにやることが役目」と、渡邉は最前線で献身的に相手を追い回す。ただ、やみ雲に走るわけではない。周囲の状況を確認し、相手のパスコースを限定しながら、背後に構える守備ブロックを指揮するような動きを見せる。まさに、熊谷監督が描く戦い方を体現する選手だ。
「自分たちは謙虚に、全員で一試合一試合まとまって、なんとか勝利をつかめるように全力で戦う」。おごったプレーは一切ない。相手を観察し、味方の存在を常に意識しながら、自らの役割に全力を注ぐ。その姿は、世界最高峰の〝プレミアリーグ〟で存在感を示すサムライの姿を彷彿とさせる。
「岡崎(慎司・レスター=イングランド)選手のような、泥臭く戦うFWを目指したい」。攻撃的なポジションながら、献身的な守備でチームに勝利をもたらし、日本人で初めてイングランド王者となった模範的選手と自身を重ね合わせている。
鹿島ユースがプレミアリーグを制した2年前は、1年生ながら出場機会を得ていた。そして、昨年は背番号7を託され、さらなる活躍が期待された。だが、出場はわずか6試合にとどまり、そのうち勝ったのは1試合のみ。自身も無得点でリーグ戦を終えるなど、苦い1年となった。
「昨年は7番をもらって、調子に乗ってしまったかな。自分はへたくそなんで。7番なんて付けられる選手ではなかった」
高校最後の年は、コーチ陣から12番のユニフォームを手渡された。熊谷監督は「背番号は(選手の評価とは)関係ない」と話すも、渡邉自身の意識には少なからず変化が生まれた。
「今は試合に出ていても、いずれは(スタメンから)落とされると思っている。危機感はある。だから、献身性だったり泥臭さだったりを、常に心がけてやっていきたい」
献身、尊重、誠実。鹿島イズムの根底にある3つの言葉をピッチで体現し、貪欲にチームの勝利を目指す。
(取材・構成◎小林康幸/サッカーマガジン編集部)
Profile◎わたなべ・れなと/1999年4月28日生まれ、鹿島ジュニアユース出身。小学4年のときに鹿島ジュニアに加入。ボランチやサイドハーフでのプレー経験も持つ176cm、70kg
※サッカーマガジン7月号掲載のユース支局を再構成し掲載しています。